人間科学研究科30周年誠におめでとうございます。私は学部と大学院博士後期課程を文教大学で過ごしました。よい機会をいただきましたので、古い記憶を遡ってみました。
臨床心理士になるには修士号を取った方がよい。そう聞いたのは学部2年の頃だったでしょうか。受験勉強を始めると「大学院設置は間に合わないので、他大学を受験するように」と申し渡されました。臨床心理学を標榜した大学院は少ない時代です。ましてや家族心理学となると……。私は岡堂哲雄先生に相談し、山根常男先生(駒澤大学)を紹介していただきました(受験前に挨拶に行く慣習があったのです)。社会学は「関連領域」だったため、2年間の実務経験後に資格試験を受けました。社会学を専攻したことでマクロな視点を養い、学問の奥深さを体感しましたが、心理学専攻でなかったことに負い目を感じました。そこで、民間の夜間講習と研究会に通って臨床のトレーニングを受けました。資格取得後はパートタイムを掛け持ちし、臨床実践、研修とスーパービジョン、学会参加の繰り返し。今ではこのほとんどを大学院カリキュラムが担っているわけです。
ある日、岡堂先生にお会いすると「博士課程を作ったから、あなた、受験しなさいよ」と声をかけられました。相当の卒業生に声をかけていたようですが、私にはご神託に聞こえました。“母校で家族心理学を学び「心理学」で学位を取る”。心の底からやってみたいと思いました。
光陰矢の如し。十年振りの母校は変化していましたが、授業、実習、カンファレンス、すべてがかけがえのない時間でした。論文検索は目覚ましい進歩を遂げ、多変量解析がパーソナル?コンピュータで出来るようになっていました(大型ではない!)。院生室では再び巡ってきた学生生活を愛おしむように、臨床や研究、人生を語り合いました。博士課程が出来たばかりだったため混乱もあり、論文提出を諦めかけたこともありました。岡堂先生、橋本泰子先生、本田時雄先生と指導者の退官が続き、ゼミ難民となった時、谷口清先生に出会いました。もはや研究テーマも混沌としていましたが、谷口先生は「論文とは」からご指導くださいました。教えを乞い、惜しみなく教えてくださる師がいる。この贅沢な環境を実感できた私は論文に集中し、年限ぎりぎりで博士(第4号)を取得しました。学ぶ場と時間をくださった文教大学大学院には心から感謝しています。
現在は信州の小さな大学に所属し、犯罪被害者支援に携わっています。自分の未熟さを感じる日々ですが精いっぱい取り組ませていただいております。元荒川のようにゆったりとした時が流れるキャンパス、生意気な学生の議論に根気強く付き合ってくれる先生方、静謐な図書館、これらの記憶が私を支えてくれています。これからも多くの学生が掛け替えのない時間を過ごすことでしょう。またそうであることを祈っています。
岡本 かおり
2009年度博士号取得 臨床心理学専攻
清泉女学院大学人間学部