文教大学大学院人間科学研究科が30周年を迎えられたことを,心よりお喜び申し上げます。
現在,私は大学で教壇に立ったり,心理職の養成に携わったりしています。また,一心理職として対人支援の仕事に従事しています。こうして心理学でなんとか禄を食むことができているのは,文教大学で過ごした時間があるからこそ,と言っても過言でありません。
私は2002年度から2003年度,文教大学大学院で過ごしました。大学院時代の何が今につながっているのか,ということを明確に言葉にすることはいささか難しく感じますが,当時を思い出そうとすると,2つの情景が強く思い出されます。1つはゼミで,もう1つは院生室です。
ゼミは,岡村ゼミに所属していました。もともと私は,岡村達也先生(現心理学科)に師事したくて文教大学の門をくぐったものですから,岡村先生から直に学べるゼミや,フランクに話せるゼミ飲みは私にとって特別な意味がありました。先生の一挙手一投足を自分の臨床に生かせないかと必死でした。先生のようにはなれませんでしたが,自分という人間を考え,改めて自分をつくっていくような,そんな大切な時間でした。
院生室では,多くの時間を同期と過ごしました。同期は私を含め20名で,院生室には10人1部屋が割り当てられていました。各部屋には自由に出入りし,アカデミックな話から他愛のない話まで,尽きることなくいろんな話が飛び交っていました。研究,勉強している人もいましたが,どちらかといえば私は他愛もない話中心の院生室生活でした。話の中身など,ほとんど思い出せませんが,その愉し気な雰囲気は覚えています。同期にはたいへん恵まれました。皆キャラが立っていて面白く,人間味に溢れていました。そんな多様多彩な同期に囲まれていたので,自分がいかに自他に狭量で視野が狭かったかを知るきっかけともなりました。
ゼミにせよ同期との交流にせよ,思い返せば良いことも苦悩したこともたくさんありますが,押しなべて,それらの記憶に触れると温かさを感じます。それこそがきっと,自分を支え,ここまで進ませてくれたものだと思います。そしてそれはまた,文教大学の建学の精神である人間性の絶対的尊厳と生命の尊厳を重視する「人間愛」に通じる何かのようにも思えます。
大学院時代に科目や実習を通して学ぶ,心理職として具有すべき知識や技能ももちろん大切です。しかし,私にとっては,それと同じかそれ以上に,師や友との時間こそが,自分自身や他人に信頼する在り方に不可欠だったと感じます。今後も,院生たちにとって自分を支える何かを発見,体験ができる時間が,文教大学大学院の中にたくさんあることを期待しています。
未筆ながら、文教大学大学院人間科学研究科の一層のご発展を祈念致しまして、お祝いの言葉とさせていただきます。
遠藤 歩
2003年度修了 臨床心理学専攻
駒澤大学文学部