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公認心理師養成カリキュラム導入と体制つくりの経緯について

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布柴 靖枝
2011年~現在 大学院実習担当者
2015年~臨床心理学専攻長
2019年~人間科学研究科長


1.はじめに

公認心理師が国家資格化に伴い、2018年から公認心理師制度が施行されることになりました。本学としては、いち早く公認心理師カリキュラムに対応すべく、プロジェクトチームを立ち上げ、検討を重ねてまいりました。その内容は、①公認心理師対応カリキュラムの整備、②修論の位置づけ、③外部実習先のさらなる確保、④医療分野を必須とし、3分野にわたる実習先の組み合わせ、⑤巡回指導の体制づくり、⑥増える実習時間に伴い学内での体制整備、⑦公認心理師試験対策、⑧実習ノートの作成と管理、⑨修了生の科目の読み替えなど多岐にわたりました。もともと本学は、臨床心理士養成大学院として長年の歴史をもっており、1学年20名を入学定員としてやってきましたが、そこに公認心理師のカリキュラムが加わることで大変な負荷がかかることになりました。実習体制を含むカリキュラム内容を質的に担保するために定員数を下げた方がいいのではないかという議論もなされました。

その道のりは決して簡単な道のりではありませんでしたが、様々な課題を抱えつつも、短期間のうちに、現定員数を維持したまま、2018年に本大学院も公認心理師カリキュラムを整えてスタートすることができました。

現在、人間科学研究科30周年を迎えた年に、くしくも公認心理師法案が成立後5年目の見直しが国の方で検討されている段階です。今後もカリキュラムや運用面で変更が行われる予定で、今後もその対応に追われることが予想されます。

さて、国家資格化に伴う学内でのカリキュラム変更は、私がちょうど臨床心理学専攻の専攻長をしていた時の取り組みになります。また、2019年からは研究科長として、また院の実習担当者として関わってきましたので代表して経緯を書かせていただきます。


2.大幅に増えた実習時間と巡回指導に伴う体制整備


-特任教員の採用?心理支援実習室の開設
公認心理師養成カリキュラムでは、大学院では計.450時間という実習が課せられ、教員1名に対し、5名の院生しか担当できないこと、また、外部実習は5回に1回巡回指導をしなければならないことが法案に示され、院にとって実習先の確保や巡回指導教員の確保などでその対策に追われることになりました。本学では臨床心理士資格養成大学院Ⅰ種に認められていることから、臨床心理士養成カリキュラムと公認心理師カリキュラムを併設する必要があり、教員の増員なくして、1学年の定員20名、計40名の実習をカバーすることは極めて難しい状況となりました。当時、益田学部長、神田研究科長のお力を借りながら、宮越大学局長とも議論を重ね、専任教員1名の退職に伴い、そのポジションで2名の特任教員を雇い、公認心理師実習担当として割り当てることになりました(将来的に特任教員が不要になれば特任でない専任教員に戻すことが可能)。それで、2020年4月に採用されたのが小柴特任准教授、小原特任講師です。

また、実習先や国(厚労省)との提出書類のやり取りや管理が増えたことから、12号館5階に「心理実習支援室」(開室当初は、「心理実習指導室」という名称)が2019年6月から開設されることになりました。


3.臨床心理学専攻の修了単位数30単位から43単位へ

2018年の公認心理師法案施行に伴い、文教大学大学院臨床心理学専攻では、30単位を43単位に増やして公認心理師対応の科目と実習体制を整えることになりました。医療を中心に3分野にわたる実習を組み合わせ、臨床心理士養成大学院資格認定協会からの指示により、臨床研における個別スーパーヴィジョン(臨床心理実習Ⅱ)も独立させるなど、臨床心理士と公認心理師の養成カリキュラムを併存させるために単位の増加をすることになりました。公認心理師資格の経過措置にあたり、過去の修了生の科目の読み替え作業を行う作業もとてつもない、労力を要しました。当時の教務委員の先生と夜を徹しての作業となり、数々の修了生からの問い合わせにも対応しました。実に、目の回る作業となりました。特に実習担当者への過度な負担が生じることになりましたが、何とか臨床心理士養成に加えて、公認心理師養成カリキュラムを2018年からスタートすることができました。


4.COVID-19パンデミックの影響とその対応

ところが、2020年からCOVID-19の蔓延に伴い、外部実習先が受け入れを制限もしくは中止に追いやられ、また、学内の実習機関の臨床相談研究所も学内閉鎖に伴い、実習が出来なくなりました。この間、国の指示により、外部実習を補うための学内での指導を工夫することが求められました。次々と襲い掛かる課題に教職員一同、頭を悩ませる事態となりました。

内部実習先の付属臨床相談研究所は、地域に開かれた有料でカウンセリングを提供する院生の実習機関に位置付けられていますが、コロナによる学内閉鎖により、外部の方の学内立ち入りが出来なくなったため、約半年以上にわたり、内部実習ができなくなりました。また、継続して来所していたクライエントには、電話によるサポートや、ごく限られた緊急性のある場合のみ、オンラインでの面談に切り替えて行いました。

学内に設置されたコロナ対策委員会への要望書の提出などを経て、ようやく再開に至りましたが、臨床相談研究所で設定した厳しいルールとコロナ対策を徹底した上で、限られた時間による実習再開となりました。例えば面接室の利用時間の制限と、利用した後の部屋の空気の入れ替えとアルコール消毒の徹底など、です。 教職員や院生への心理的負担と不安、物理的負担を乗り越えて、2023年からようやくCOVID-19が5類に変わったことで、元通り相談を受け付けられるようになりました。


5.臨床相談研究所への特務教員の配置について

臨床相談研究所は延べ年間700件の相談業務を有料で行っています。長年、大熊恵子先生が助手として、他の教員と協力して臨床相談研究所の運営とりまとめをしてくださっていました。しかし、大熊先生の退職後、専任は採用されておらず、不安定な体制が続いており、苦慮してきましたが、有難くも、中島学長、石原副学長からご理解をいただき、学内での調整をしていただき、2024年4月からは実習先の一つになる特務教員を臨床相談研究所に配置していただくことになりました。そこで任期制ではありますが、山口昴一先生を採用することができ、臨床研も盤石な体制で臨むことができて関係教員一同、大変喜んでいます。尚、教員室は本来、臨床研にあるべきかと思いますが、臨床研にはそのスペースがないために、9号館3階の博士後期課程の演習室の中に併設することになりました。


6.今後の課題

公認心理師カリキュラムが整備され、5年がたち、多くの関係者の皆様のご尽力のおかげで、体制も整いつつあります。

一方で、前倒しされた国家資格の試験日(2024年は3月実施)と修士論文に費やす研究活動をどのようにバランスをとって行うのか、実習と研究活動のバランスなども今後の検討課題となっています。また、現在、公認心理師の5年見直しが国で行われており、その結果次第では、カリキュラムの変更が求められる可能性があります。公認心理師および臨床心理士の2つの資格を維持する体制を整えることは至難の技ではありません。2023年度には実習担当者で協議し、5年見直しで一部明らかになった実習時間のカウントを基に大幅な見直しも行いました。

公認心理師カリキュラムの導入は決して簡単な道のりでなく、様々な方のご理解とご尽力の中で体制が整ってきました。振り返ってみれば、他大学院には見られない、多様な臨床分野で活躍している教員体制と、幅広い豊かな実習体制を整えることができ、本学の院の売りとなっています。

関係する先生方、相談員、職員の皆様のご尽力なくしてなしえなかったことで、改めてここで感謝申し上げたいと思います。